よく、中小企業や個人商店の方から、うちは商号登記しているから商標登録しなくても大丈夫というような話をしばしば耳にしますが、本当なのでしょうか。
商号と商標は全くちがいます。しかし、他の商標権者によって、商号の使用を差し止められたり、損害賠償を請求されたりする可能性があります。
したがって、自己の商号を安心して使用するためにも、商号を商標登録することをお勧めします。
以下、具体的に見ていきましょう。
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商号と商標の違いは
まず、商号と商標の違いを確認してみましょう
商号とは
商号とは、商人又は会社の名称です。
同一の所在場所において同一の商号でなければ、法務局で登記することができます。つまり、所在場所が異なっていれば、他人の商号と同一の商号を登記することができるわけです。このため、日本中に同一の商号や類似する商号が多数存在することになります。
なお、商号は一つの商人又は会社につき一つの商号しか登録できません。
商標とは
商標とは、商品やサービス(役務)に付される目印のことです。
これにより、消費者がある商品やサービスに触れたときその商品やサービスは、だれが製造又は提供したものなのか、その商品やサービスの質としてはどのくらいのものかが分かるようになります。商標は商品又はサービスを指定して特許庁に登録することができます。したがって、ある商人又は会社で、商品又はサービス毎に数種類の商標登録をすることができます。商標登録すれば、日本国内において、その商標を登録の際に指定した商品又はサービスに使用することができる唯一の権利者となり、また、その類似範囲における他人の使用を禁止することができます。
例えば、ソニーについてみてみますと、商号は「ソニー株式会社」でただ一つですが、商標は「ウォークマン」をはじめ1800件の登録があり、「ウォークマン」だけでも48件の商標登録があります。当然「ソニー」「SONY」なども商標登録されています。
このように商号と商標は全く別物です。じゃあ、商号と商標は全く関係がないのでしょうか?他社の商標権が商号に及ぶ場合があり、商号を登記していても、自由にその商号を使用できなくなる場合があるのです。また、商標法だけでなく、会社法や不正競争防止法により、商号を自由に使用できない場合があります。
では、以下で具体的に見ていきましょう。
商号を登記しても自由に使用できない場合とは
(1)会社法により商号が使用できなくなる場合
商号登記がなされていても、会社法第8条により不正の目的をもって、他の会社であると誤認される恐れのある名称又は商号を使用することはできません。
(2)不正競争防止法により商号が使用できなくなる場合
また、不正の目的を有していなくても、不正競争防止法により次の行為は禁止されています。
・他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、 商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又 は営業を表示するものをいう。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為(周知商品等表示混同惹起行為)
・及び他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用する行為(著名商品等表示冒用行為)
例えば、仮に「ソニ株式会社」として商号登記できても、この商号が著名商号「ソニー株式会社」に類似する場合、不正の目的がなくても使用すると「著名商品等表示冒用行為」となり、不正競争防止法に抵触することになります。
(3)商標法により使用できなくなる場合
「商号」であっても、それが商品・サービスの出所識別標識であると需要者から認識される態様で使用すると、それは「商標」となります。つまり、商標権が商号にも及ぶことになるわけです。
商標権は商標の同一又は類似の範囲まで及ぶ強力な権利ですが、商標法第26条で「自己の名称、著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標」には商標権の効力が及ばないとされています。
例えば、商号「ABC株式会社」である場合に、自社の製造した商品のパッケージに「ABC株式会社」と表示して販売する場合、「商標」の使用とみなされる可能性があります。しかし、「ABC株式会社」は自己の名称を使用しているに過ぎず、この使用が普通に用いられる方法の範囲である限り、たとえ商標「ABC」を有する商標権者といえども使用を差し止めをすることはできません。
しかし、自社の製造した商品のパッケージに例えば「ABC」と表示して販売する場合はどうでしょう。株式会社を除いた「ABC」は自己の名称ではなく略称に当たり著名でなければ、商標「ABC」を有する商標権者から使用差し止めされる可能性があります。場合によっては損害賠償請求される可能性もあるのです。
したがって、自己の「商号」でも略称を用いると商標権者から使用差し止めや損害賠償される恐れがあるので、注意する必要があります。
そのためにも、多少費用は掛かりますが、商標登録をされることをお勧めします。