意匠とは、物品あるいは物品の部分のデザインをいいます。
我が国では、新しく創作した意匠を知的財産として保護し、その利用を図ることによりより意匠の創作を奨励して、産業の発達を図ることを目的として意匠法を定めています。
意匠法では「意匠とは、物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又 はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」と規定し、かなり広範に意匠の保護を図っています。
意匠の認定
意匠は非常に抽象的な概念です。抽象的な捉えどころのないものを保護するには、どのようにすればよいのでしょうか。
意匠を具体的に捉えるために、意匠を「物品」とその「物品」の形状、模様、色彩又はこれらの結合である「形態」とに分けて意匠を認識します。
そして、さらに「物品」はその用途と機能の要素に分けて認識します。。
これを図示しますと、意匠は図のような要素で構成されているものと考え、これらの要素を具体的に検討することで、抽象概念である意匠をある程度具体的に捉えることができるものと考えられます。
また、これにより意匠で最も重要な概念である意匠の類似概念も捉えることができるようになります。
次の図は物品と形態による意匠の類似関係を表したものです。物品が異なっていれば、形態が類似していても非類似と判断できるので、基本的な判断はこのマトリックスで類否判断を行うことができます。
ただし、厳密にはこのようなマトリックスで捉えられないようなケースもあります。
例えば、徳利と花瓶は物品が非類似ですが、形態が類似する場合、両意匠は類似すると判断される場合があります。
意匠登録の対象となる意匠とは
意匠として保護されるためには以下の要件を満たす必要があります。
(1)物品と認められるもの
(2)物品自体の形態であること
(3)視覚に訴えるもの
(4)視覚を通じて美感を起こさせるもの
物品と認められるもの
意匠法上の物品は、有体物であり、市場で流通する動産 でなければなりません。
例えば、不動産である建築物、物品と離れたデザインであるタ イプフェイスやアイコン、花火などは意匠法上の物品と認められません。
物品自体の形態であること
その意匠に係る物品自体の形態である必要があります。
例えば、物品がハンカチの場合、販売展示効果を目的として ハンカチを結んでできた花の形態は、ハンカチという物品自体の形態とは認められません。ただし、 折り畳んだハンカチを置物にしたような場合は、置物という物品自体の形態と認められることはあります。
視覚に訴えるもの
視覚すなわち肉眼で認識されるものでなければなりませ ん。ただし、取引の際、ダイヤモンドのように拡大観察することが通常である場合には、 肉眼によって認識できるものと同様に扱われます。
視覚を通じて美感を起こさせるもの
機能、作用効果を主目的としたもので、美感をほとんど起こさせないものは意匠 とは認められませんが、美感は、美術品のように高尚な美を要求するもの ではなく、何らかの美感を起こすものであれば足ります。
意匠登録の要件
特許庁の審査官が、出願された意匠が下記の意匠登録の要件を満たしているかを審査し、その審査に合格した意匠出願のみが意匠登録を受けることができます。
(1)工業上利用できる意匠であるか
(2)今までにない新しい意匠であること(新規性)
(3)容易に創作できた意匠でないこと (創作非容易性)
(4)意匠登録を受けることができない意匠ではないこと(不登録事由)
工業上利用できる意匠であるか
工業的(機械的、手工業的)生産過程を経て反復生産され、量産される物品のデザインである必要があります。
例えば、工業上利用できない意匠とては、次のようなものがあります。
■ 自然物を意匠の主体にしたもので量産できないもの (盆栽、自然石をそのまま置物としたもの、打ち上げ花火のせん光等 )
■ 土地建物などの不動産
■純粋美術の分野に属する著作物(絵画、彫刻)
。
今までにない新しい意匠であること(新規性)
意匠登録を受けるためには、意匠登録出願前に出願する意匠と同一又は類似の意匠が日本国内及び外国において存在しないこと、すなわち、新規なものであること(新規性を備えて いる)が必要です。
容易に創作できた意匠でないこと (創作非容易性)
新規な意匠であっても、容易に創作されたと判断される意匠は、意匠登録を受けることができません。
また、公知の形状やモチー フ等に基づいて容易に創作できる意匠も意匠登録を受けることができません。
例えば、次のようなものは創作が容易であると判断され意匠登録を受けることができません。
■置換の意匠
■寄せ集めの意匠
■配置の変更による意匠
■構成比率の変更又は連続する単位の数の増減による意匠
■公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合をほとんどそのまま表したにすぎない意匠
■商慣行上の転用による意匠
意匠登録を受けることができない意匠ではないこと(不登録事由)
次のものは、公益的な見地から意匠登録を受けることができません。
■ 公序良俗を害するおそれがある意匠
■ 他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠
■ 物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠
最先の出願であること(先願)
同一又は類似の意匠について二以上の出願があった場合に、最先の意匠登録出願 人の出願(同日のものはいずれか一方)のみが登録することができます。
ただし、意匠法特有の制度として、同じ出願人によって、先の出願の公報が発行されるまでに後の出願がされた場合には、先の出願を本意匠とし、これと類似する意匠を関連意匠とすることで登録を受けることがでる場合があります。(関連意匠制度)
一意匠一出願の原則
意匠登録出願は、原則として意匠ごとにしなければなりません。
意匠権は物品ごとに成 立するため、自動車と自動車おもちゃのように物品が異なれば別々に出願する必要 があります。
なお、ナイフ、フォーク、スプーンなどのようにセットで使用される物品につい ては、複数の物品を一つの組物の意匠としてまとめて出願できる場合があります。
物品の区分
「意匠登録出願は、経済産業省令で定める物品の区分(外部リンク)により意匠 ごとにしなければならない。」とされています。
意匠登録出願をするときは、その物品の属する物品の区分を願書の「意匠に係る物品」の欄に記載する必要があります。
上記の物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは、その下欄に掲げる物品の区分と同程度の区分による物品の区分を願書の「意匠に係る物品」の欄に記載し、「【意匠に係る物品の説明】」の欄にその物品の使用の目的、使用の状態等物品の理解を助けることができるような説明を記載しなければなりません。