従来、ハドウェアにより実現されていた機器の状態の表示や機器の操作は、近年は、コンピュータにより作り出されたデジタル画像を通じて行うグラフィカル・ユーザ・インターフェイスが主流になっています。
これらの画像デザインは一定の要件が満たされれば、意匠法により保護を受けることができます。
ただ、日本の意匠法による画像デザインの保護範囲は、従来の意匠制度を踏襲して、物品の形状等を意匠法の保護対象である意匠と位置付けており、物品を離れて意匠は成立しないという原則があるので、制度改正により保護範囲が拡張されてきたとはいえ、まだ諸外国に比べかなり狭い範囲の保護となっています。
今後、欧州や米国のように、アイコン、タイプフェイス、インターネットの操作画像といった画像へも保護が拡張されることが望まれます。
以下では、現状の日本の画像のデザインの保護について、審査基準に基づいてみて行きたいと思います。
画像を含む意匠の意匠登録出願に係る意匠の認定
画像を含む意匠の意匠登録出願に係る意匠の認定は、基本的には、通常の意匠の認定と同様に、願書の記載及び願書に添付した図面等を総合的に判断して行ないます。
意匠に係る物品
画像を含む意匠の意匠に係る物品の使用の目的、使用の状態等に基づ き、意匠に係る物品が有する用途及び機能を認定します。
「画像」の用途及び機能
「画像」の用途及び機能は 意匠の意匠に係る物品が有する用途及び機能に基づいて認定します。
「画像を含む意匠」の形態
「画像を含む意匠」の形態は、出願願書に記載された一組の図面及び断面図、斜視図、画像図等に基づいて認定します。
画像を含む意匠の登録要件
画像を含む意匠として意匠登録出願されたものが意匠登録を受けるためには、以下のすべての要件を満たさなければなりません。
(1)工業上利用することができる意匠であること
(2)新規性を有すること
(3)創作非容易性を有すること
(4)先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠ではないこと
工業上利用することができる意匠であること
画像を含む意匠として意匠登録出願されたものが、工業上利用することができる意匠に該当するためには、以下のすべての要件を満たす必要があります。
(1)意匠を構成するものであること
(2)意匠が具体的なものであること
(3)工業上利用することができるものであること
意匠を構成するものであること
画像デザインが意匠法により保護されるためには、意匠法2条の意匠の定義を満たす意匠を構成するものである必要があります。
したがって、意匠を構成するためには、以下のいずれかに該当しなければなりません。
(1)物品の表示部に表示される画像が、 意匠法第2条第1項に規定する物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合と認められるものであること (表示画像(2条1項))
(2)意匠に含まれる画像が、意匠法第2条第2項において規定する画像を構成するものであること (操作画像(2条2項))
意匠法 2条
この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。第八条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。
2 前項において、物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合には、物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であつて、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるものが含まれるものとする。
表示画像(2条1項)
■物品の表示部に表示される画像が、その物品の機能を果たすために 必要な表示を行う画像であること
例えば、腕時計の時刻表示画像
■物品の表示部に表示される画像が、その物品に記録された画像であ ること
例えば、 テレビ番組の画像、インターネットの画像、他の物品からの信号による画像を表示 したものなど物品の外部からの信号による画像を表示したもの、物品に接続又は挿入された記録媒体に記録された画像を表示したものは、意匠を構 成する画像とは認められません。
操作画像(2条2項)
■ 物品の機能を発揮できる状態にするための操作の用に供される画像 であること
例えば、携帯電話機の操作画像
■ 当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示される画像で あること
例えば、磁気デスクレコーダの操作画面がテレビモニターに表示される場合
■ その物品に記録された画像であること
表示画像と同様に、その操作に係る画像データがその物品に記録されている必要があります。
電子計算機に関する画像
2016年の審査基準の改正により、以前は、意匠にかかる 物品に「あ らかじめ記録」された画像であることが必要でしたが、審査基準を緩和し、時期を問わず、物品に「記録」 されたことをもって物品と一体化した「意匠」を構 成する画像と認め、意匠登録の対象として取り扱うようになりました。
こ れにより、それらの機器が有する機能のアップデートの画像についても、意匠登録 の対象となりました。また、具体的な機能を実現するソフトウェアのインストールによって電子計算機に記録された画像についても、付加機能を有する電子計算機の意匠を構成する画像と認め、意匠登録の対象として取り扱こととされています。
■電子計算機の画像
一般に 任意のソフトウェア等により表示される画像は、情報処理を既に実行している画像であって、物品(電子 計算機)の情報処理機能を果たすために必要な表示ではないので、意匠法第2条第1項に規定する意匠を構成するものとは認められません。 ただし、電子計算機の情報処理機能に係る基本シス テムの画像や、ハードウェアとしての電子計算機の機能調整に関する画像 につい ては、意匠を構成するものと認められる場合があります。
■ 付加機能を有する電子計算機の画像
電子計算機は、ソフト ウェアと一体化することにより、具体的な機能を有する新たな物品を構成するもの(付加機能)と考えられます。 付加機能を有する電子計算機については、情報処理機能のみならず、付加された具体的機能を有する物品であることから、意匠を構成するものと認められる場合があります。
例えば、意匠に係る物品を「 携帯情報端末機」ではなく「歩数計機能付き電子計算機」とすれば、その操作画面は意匠を構成するものと認められます。
次の場合も意匠に係る物品を「はがき作成機能付き電子計算機」とすれば、 その操作画面は意匠を構成するものと認められます。
意匠を構成する画像に該当しないもの
以下の画像は、意匠を構成する画像に該当せず意匠登録を受けることができません。
(1) 装飾表現のみを目的とした画像
(2) 映画等(いわゆるコンテンツ)を表した画像
(3) 汎用の表示器に表示された画像
(4) 記録媒体に記録された画像
(5) ゲーム機に表示された画像
公知意匠と画像を含む意匠の類否判断
画像を含む意匠の場合、対比する両意匠が次の全てに該当する場合 に両意匠は類似する。
(1) 対比する両意匠の意匠に係る物品が同一又は類似であること
(2) 対比する両意匠の画像の用途と機能が同一又は類似であること
(3) 対比する両意匠の形態が同一又は類似であること
変化する画像の意匠
変化する画像の意匠は、2011年の審査基準の改定より、保護が明確化されました。
複数の画像が、物品の同一機能を果たすために必要な表示 を行う画像又は物品の同一機能を発揮できる状態にするために行われる操 作の用に供される画像(以下、「物品の同一機能のための画像」という。) であり、かつ、形態的な関連性があるものと認められる場合は、これら複数の画像を含んだ状態で一つの意匠として認められます。
物品の同一機能のための画像
物品が有する一の機能を発揮できる状態にするために複数の連続する入力指示を行うなど、操作の連続性が認められる場合には、入力指示と対応して連続的に変化する一 連の画像は、物品の同一機能のための画像と認められます。。
形態的な関連性が認められるもの
複数の画像を含んだ状態で一意匠と認められるためには、変化の前後の画像について、図形等の共通性による形態的な関連性が認められなければなりません。
下図のように場合でも、変化の最初と最後では図形等の形態が異なりますが、その変化途中の画像の開示によって、当該図形等が漸次的に変化す ると認められ、形態的な関連性が認められます。。
複数の画像が一意匠として認められないもの
物品の異なる機能のための複数の画像や、形態的な関連性の認められな い複数の画像については、これら複数の画像を含んだ状態で一つの意匠とは認められません
下図のような場合は、物品の異なる機能のための複数の画像を含むので、一意匠とは認められません 。