令和元年意匠法改正は今までにない大幅な改正がされています。詳しくは、特許庁のホームページ「令和元年意匠法改正特設サイト」を見て頂くこととし、ここでは簡単に改正の概要を見て行きたいと思います。
今回改正にっているのは、以下の項目です。
1.保護対象の拡充(令和2年4月1日施行)
2.関連意匠制度の拡充(令和2年4月1日施行)
3.意匠権の存続期間(令和2年4月1日施行)
4.創作非容易性の水準の明確化(令和2年4月1日施行)
5.組物の意匠の拡充(令和2年4月1日施行)
6.間接侵害の対象拡大(令和2年4月1日施行)
7.損害賠償算定方法の見直し(令和2年4月1日施行)
8.物品区分の扱いの見直し(令和3年4月1日施行)
9.手続救済規定の拡充(令和3年4月1日施行)
10.手続救済規定の拡充(令和3年4月1日施行)
1.保護対象の拡充(令和2年4月1日施行)
これまで、意匠法では「物品(物品の部分を含む。…)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるもの」として、物品に係る意匠を保護する立場をとってきましたが、今回の改正で、物品をはなれて、「画像」、「建築物」、「内装」の意匠も保護する従来の意匠の考え方を覆す画期的な改正となっています。
建築物の意匠
これまで、建築物は不動産であり、物品(動産)とは認められていませんでしたので、意匠法での保護を受けることができませんでしたが、今回の改正により、不動産である建築物も意匠法で保護されることになりました。
意匠法上の建築物として認められるには
■土地の定着物であること
■人工構造物であること。土木構造物を含む。
であることが必要です。
例えば、商業用建築物、住宅、学校、病院、工場、競技場、橋りょう、電波塔 などです。
また、建築物の部分に特徴がある場合は、物品の意匠と同様に部分意匠として認められることになりました。
画像の意匠
これまで、画像に関する意匠は、平成18年の意匠法改正で、物品の操作の用に供される画像を物品の部分の意匠として保護してきました。
今回の意匠法改正により、新たに画像を意匠と認め、物品から離れた画像それ自体も意匠として保護の対象となりました。
したがって、今回の意匠法改正以降、意匠登録出願人が画像を含む意匠について意匠登録を受ける方法には、大きく以下の2通りがあることにります。
■ 画像意匠(物品から離れた画像自体)として保護を受ける方法(画像意匠)
■ 物品又は建築物の部分としての画像を含む意匠として保護を受ける方法(物品等の部分に画像を含む意匠)
画像意匠
画像意匠とは、その画像を表示する物品や建築物を特定することなく、画像それ自体を意匠法による保護の客体とする意匠のことをいいます。
ただし、すべての画像が意匠法による保護の対象となるのではなく、次の画像に限定されます。
■機器の操作の用に供される画像(操作画像)
■機器がその機能を発揮した結果として表示される画像(表示画像)
したがって、上記のいずれにも該当しない画像、例えば、映画やゲーム等の
コンテンツは保護対象ではありません。
ここで、
「操作画像」とは、対象の機器が機能にしたがって働く状態にするための指示を与える画像であり、特段の事情がない限り、画像の中に何らかの機器の操作に使用される図形等が選択又は指定可能に表示されるものをいいます。
「表示画像」とは、何らかの機器の機能と関わりのある表示画像であり、画像の中に機器の何らかの機能と関わりのある表示を含むものをいいます。
物品の部分としての画像を含む意匠
物品の部分としての画像を含む意匠とは、物品に記録され、物品の表示部に示
された、以下の少なくともいずれか一方に該当する画像をいいます。
■画像を表示する物品の機能を発揮できる状態にするための操作の用に供されるもの(物品の機能を発揮するための操作画像)
■画像を表示する物品の機能を果たすために必要な表示を行うもの(物品の機能にとって必要な表示画像)
建築物の部分としての画像を含む意匠
建築物の部分としての画像を含む意匠とは、建築物に記録され、建築物の表示部に示された、以下の少なくともいずれか一方に該当する画像をいいます。
■画像を表示する建築物の機能を発揮できる状態にするための操作の用に供されるもの(建築物の機能を発揮するための操作画像)
■画像を表示する建築物の機能を果たすために必要な表示を行うもの(建築物の機能にとって必要な表示画像)
内装の意匠
これまでは複数の構成物品等から構成されるものについては、組物の意匠のみが一意匠一出願の例外として認められてきましたが、今回の改正により、家具や什器などの複数の構成物品等から構成される内装の意匠についても、一意匠一出願の例外として認められることになりました。
内装の意匠については、各構成物品等の組合せ方や配置を含めた内装全体としての美感を保護対象とし、内装を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠が内装全体として統一的な美感を起こさせるときに限り、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができるようになりました。
2.関連意匠制度の拡充(令和2年4月1日施行)
これまでは、関連意匠として出願できる期間は本意匠の意匠公報発行前まで(本意匠の出願から8か月程度)とかなり限定されていました。
今回の改正により、基礎意匠の出願から10年を経過する日前までとなりました。
また、これまでは、関連意匠にのみ類似する意匠は、関連意匠の無限連鎖を防止する観点から登録できませんでしたが、今回の改正により、関連意匠にのみ類似する関連意匠も登録を認めることとなりました。
これにより、関連意匠制度はこれまでの関連意匠制度とは、まったく別物の制度となりました。
ここで、「本意匠」「基礎意匠」の用語に注意する必要があります。
関連意匠として意匠登録を受けるためには、自己の意匠登録出願に係る意匠又は自己の登録意匠のうち一の意匠を選択しなければりませんが、この選択された意匠のことを「本意匠」といいます。
本意匠のうち最初に選択されたもの、すなわち、「本意匠」であって他の意匠の関連意匠でないものを「基礎意匠」といいます。
関連意匠として意匠登録を受けるための要件
出願された意匠が関連意匠として意匠登録を受けることができるか否かについて審査を行う際、以下の全ての要件を満たしているか否かが判断されます。
■本意匠と同一の意匠登録出願人による意匠登録出願であること
■本意匠に類似する意匠に係る意匠登録出願であること
■基礎意匠の意匠登録出願の日(優先権主張の効果が認められる場合は優先日)以後、10年を経過する日前に出願された意匠登録出願であること
本意匠等が満たさなければならない要件
本意匠等についても、以下の要件を満たしている必要があります。
■本意匠の意匠権が消滅等していないこと
■本意匠の意匠権に専用実施権が設定されていないこと
3.意匠権の存続期間(令和2年4月1日施行)
これまでは、意匠権の満了日は、「登録日から20年経過した日まで」でしたが、改正により、「出願日から25年経過した日まで」となりました。
期間の起算日が特許に合わせて登録日からとなっています。
4.創作非容易性の水準の明確化(令和2年4月1日施行)
これまでは、創作非容易性の判断の根拠となる資料は公然知られたものに限られていましたが、今回の改正により、公然知られたか否かに関わらず、刊行物やウェブサイト等に掲載された形状・模様等も創作非容易性判断の根拠資料とすることとなりました。
また、画像を意匠の定義に追加したことに伴い、日本国内又は外国において公然知られ、刊行物やウェブサイト等に掲載された画像に基づいて容易に創作できた意匠についても登録を受けることができないものとなりました。
5.組物の意匠の拡充(令和2年4月1日施行)
これまでは、組物の部分については意匠登録が認められませんでしたが、改正により、組物の部分についても意匠登録することが認められることとなりました。
また、意匠の保護対象に建築物及び画像が追加されましたので、建築物や画像についても、二以上の建築物又は画像であって経済産業省令で定めるものを構成するものに係る意匠も、組物全体として統一があるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができるようになりました。
6.間接侵害の対象拡大(令和2年4月1日施行)
今回の改正により、特許法の規定と同様に、「物品の製造にのみ用いる」専用品に限らず、登録意匠等に係る物品の製造に用いる物品等であって、当該登録意匠等の「視覚を通じた美感の創出に不可欠なもの」を、その意匠が登録意匠等であること及び当該物品等が意匠の実施に用いられることを知りながら、業として譲渡等する行為も侵害とみなされることになりました。
これまでは侵害品を構成部品に分割して製造・輸入等する行為は意匠権を侵害する行為とみなされませんでしたが、今回の改正により、悪意もって侵害品を構成部品に分割して製造・輸入等する行為が意匠権を侵害する行為とみなされるようになりました。
7.損害賠償算定方法の見直し(令和2年4月1日施行)
今回の改正により、特許、実用新案、商標と同様に、これまでは、意匠権を侵害したときの損害賠償額から権利者の生産・販売能力等を超える部分が除かれていましたが、これらの超える部分についてもライセンス等により実施できることから、これらの超える部分について損害賠償の対象から除かれないことになりました。
8.複数意匠一括出願手続の導入(令和3年4月1日施行)
これまでは、一意匠一出願の原則により、意匠ごとに願書を作成する必要がありましたが、今回の改正により、複数の意匠をまとめた願書も作成することができるようになりました。
ただし、この改正は、あくまでも手続の簡素化の観点から行うものであり、一意匠ごとに一つの意匠権を発生させるという原則は維持されますので、複数の意匠をまとめて出願しても、特許庁に支払う料金は、意匠ごとに発生することになります。
9.物品区分の扱いの見直し(令和3年4月1日施行)
これまでは、願書に記載すべき物品の区分の粒度を「物品区分表」により定めていましたが、物品の区分の柔軟化を図るため、今回改正により、これを廃止し、経済産業省令に「一意匠」の対象となる基準を設けることとしています。
10.手続救済規定の拡充(令和3年4月1日施行)
これまでは、指定期間が経過した後や優先期間が経過した後の出願等の救済が認められていませんでしたが、改正により、指定期間が経過した後や優先期間が経過した後の出願等の救済も認められることになりました。