実用新案法は、特許法と異なり、考案の早期権利保護を図る観点から、一定の要件を満たす実用新案登録出願に対して実体審査を経ることなく実用新案権の設定登録がされます。
実用新案法第6条の2 は、この一定の要件( 基礎的要件 )について規定しています。
この基礎的要件が課されていることにより、実用新案法の保護対象でない考案について実用新案権が設定されたり、実質的に出願書類の体をなしていない出願がそのまま登録されたりすること等の不都合を防止しています。
ここでは、審査基準に基づき、実用新案登録の基礎的要件につき見て行きます。
基礎的要件についての判断
実用新案登録出願が以下のいずれにも該当しない場合は、基礎的要件を満たしていると判断されます。
(1) 保護対象違反(第6条の2第1号及び第14条の3第1号)
(2) 公序良俗等違反(第6条の2第2号、第14条の3第2号及び第4条)
(3) 実用新案登録請求の範囲の記載に関する委任省令要件違反 (第6条の2第 3号、第14条の3第3号、第5条第6項第4号及び実用新案法施行規則第4条)
(4)考案の単一性違反(第6条の2第3号、第14条の3第3号及び第6条)
(5)明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面(以下この部において「明細書等」 という。)の著しい記載不備(第6条の2第4号及び第14条の3第4号)
(1)保護対象違反(第 6 条の 2 第 1 号及び第 14 条の 3 第 1 号)
請求項に記載された考案が、 自然法則を利用した技術的思想の創作でない場合は、保護対象違反に該 当します。
また、請求項に係る考案が「物品の形状、構造又は組合せ」に係るものでない場合も、保護対象違反に該当します。
以下のものは、 「物品の形状、構造又は組合せ」 に該当せず、保護対象違反になります。
■方法のカテゴリーである考案
■ 組成物の考案
■ 化学物質の考案
■ 一定形状を有さない物(例:液体バラスト、道路散布用滑り止め粒)
■ 動物品種又は植物品種
■ コンピュータプログラム自体
(2) 公序良俗等違反(第 4 条、第 6 条の 2 第 2 号及び第 14 条の 3 第 2 号)
請求項に係る考案が公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するものである ことが明らかな場合に、公序良俗等違反に該当します。
(3) 実用新案登録請求の範囲の記載に関する委任省令要件違反 (第6条の2第 3号、第14条の3第3号、第5条第6項第4号及び実用新案法施行規則第4条)
実用新案登録請求の範囲の記載が以下のいずれかに該当する場合は委任省令要件違反に該当します。
①請求項ごとに行を改め、一の番号を付して記載されていない場合
② 請求項に付す番号について、記載する順序により連続番号となっていない 場合
③請求項の記載における他の請求項の記載の引用がその請求項に付した番号によりなされていない場合
④他の請求項の記載を引用して請求項が記載される際に、その請求項が引用 する請求項より前に記載されている場合
(4) 考案の単一性違反(第 6 条、第 6 条の 2 第 3 号及び第 14 条の 3 第 3 号)
実用新案登録の基礎的要件の審査では、先行技術調査はなされないため、考案の先行技術に対する貢献を明示する特別な技術的特徴については、 明細書、実用新案登録請求の範囲及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて 認定されます。
(5) 明細書等の著しい記載不備(第 6 条の 2 第 4 号及び第 14 条の 3 第 4 号)
以下のいずれかに該当する場合には、明細書等の著しい記載不備に該当します。
① 明細書等に必要な事項が記載されていない場合
② 明細書等の記載が著しく不明確である場合
基礎的要件違反の場合の取扱い
基礎的要件を満たさない出願について、特許庁長官は、補正をすべきことを命じます。
また、補正命令において指定した期間内にその 補正がされない場合は、特許庁長官は、出願を却下します。
参考条文
実用新案法
第六条 二以上の考案については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより考案の単一性の要件を満たす一群の考案に該当するときは、一の願書で実用新案登録出願をすることができる。
(補正命令)
第六条の二 特許庁長官は、実用新案登録出願が次の各号の一に該当するときは、相当の期間を指定して、願書に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面について補正をすべきことを命ずることができる。
一 その実用新案登録出願に係る考案が物品の形状、構造又は組合せに係るものでないとき。
二 その実用新案登録出願に係る考案が第四条の規定により実用新案登録をすることができないものであるとき。
三 その実用新案登録出願が第五条第六項第四号又は前条に規定する要件を満たしていないとき。
四 その実用新案登録出願の願書に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲若しくは図面に必要な事項が記載されておらず、又はその記載が著しく不明確であるとき。
(訂正に係る補正命令)
第十四条の三 特許庁長官は、訂正書(前条第一項の訂正に係るものに限る。)の提出があつた場合において、その訂正書に添付した訂正した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面の記載が次の各号のいずれかに該当するときは、相当の期間を指定して、その訂正書に添付した訂正した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面について補正をすべきことを命ずることができる。
一 その訂正書に添付した訂正した実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により特定される考案が物品の形状、構造又は組合せに係るものでないとき。
二 その訂正書に添付した訂正した実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により特定される考案が第四条の規定により実用新案登録をすることができないものであるとき。
三 その訂正書に添付した訂正した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面の記載が第五条第六項第四号又は第六条に規定する要件を満たしていないとき。
四 その訂正書に添付した訂正した明細書、実用新案登録請求の範囲若しくは図面に必要な事項が記載されておらず、又はその記載が著しく不明確であるとき。
実用新案法施行規則
実用新案登録請求の範囲の記載)
第四条 実用新案法第五条第六項第四号の経済産業省令で定めるところによる実用新案登録請求の範囲の記載は、次の各号に定めるとおりとする。
一 請求項ごとに行を改め、一の番号を付して記載しなければならない。
二 請求項に付す番号は、記載する順序により連続番号としなければならない。
三 請求項の記載における他の請求項の記載の引用は、その請求項に付した番号によりしなければならない。
四 他の請求項の記載を引用して請求項を記載するときは、その請求項は、引用する請求項より前に記載してはならない。