「ブランド戦略」と「商標戦略」

ブランド」とは何か、「商標(マーク)」とどのような関係にあるのか、「商標(マーク)」の本質を把握するためには、「ブランド」の理解が欠かせません。


ブランドの歴史

ブランド」の言葉の起源は、古期スカンジナビア語の「brander(焼きつける)」が由来といわれています。こ の焼印は、もともとは自分の持つ牛と他人の持つ牛とを区別するための手段でした。

中世には、陶器職人のなかに自分の作品の印 として陶器の底にオリジナルのサインやマークを付すようになりました。

19 世紀には商品の出荷時に、生産者は商品にラベルを貼ったり、特徴的なロゴマークや覚えやすい発音の名前を付けて、より短時間で大量に商品を区別し、また自身の商品と他人の商品との区別をするようになりました。

産業革命後の19 世紀後半には、企業として自社商品と競合他社商品との区別をはっきりさせるためブランド名を商品に付けるようになりました。

このように、起源からはブランドとは商標(マーク)そのものでありました。。

また、日本では、ブランドといえば、「グッチ」「ベンツ」「シャネル」等の高価な外国の商品を意味していました。

しかし、近年、経営学の進展や 企業のM&Aが広まるにつれて 企業価値の本質を問うことで、「ブランド」こそが企業価値を決める重要な要素であることが明確に認識されるようになってきました。



現代的な意味でのブランドとは

まず、経営学的には「ブランド」をどのように捉えているのでしょうか

フィリップ・コトラー教授は、「ブランドとは、個別の売り手または売り手集団の財やサービスを識別させ、競合する売り手の製品やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせ」と定義しています。

そして、ブランドには次の3つの役割があるとしています。

1.自社製品・商品を他社や類似製品・商品か ら識別する役割
2.顧客との約束を果たし、品質保証する(信 頼の証)役割
3.製品・商品に意味を与え、それを象徴する役割

これらのことから、ブランドは、次のような効果があるとしています。

■顧客に対する効果
〇商品・サービスの選択の拠り所となる。
〇使用・経験の満足を高める機能を果たす。
〇他の製品・サービスを探す手間や失敗のリスクを回避でき購買の効率が上がる。
〇心理的な満足感が高まる。

■企業に対する効果
〇信頼を寄せる顧客のブランド・ロイヤリティを得て、安定的かつ長期的な収益基盤となる。
〇プレミアム価格の設定や競合に対する競争優位のポジションを得ることができる。


資産価値としてのブランド(ブランド・エクイティ)

企業がブランドを醸成し創造して行くと、それは資産価値を持つようになります。
1980年代の米国では企業のM&Aが広まるにつれて、自社の商品やサービスを競合他社より有利な条件で取引するのに役立つ資産価値のあるものと考え、企業会計上の無形資産として計上しようという考えが現れました 。

デービッド・A・アーカー(David A.Aaker)が1991年に著した「Managing Brand Equity」では、 ブランドの資産価値は「ブランドロイヤルティ」「ブランド認知」「知覚品質」「ブランド連想」の4つの構成要素からなるとしています。

■「ブランドロイヤルティ」 : 顧客がブランドに対してどの程度忠誠心または執着心を持っているかということ。
■「ブランド認知」: そのブランドが「どの程度知られているか」と同時に、「どのように知られているか」ということ。
■「知覚品質」: 消費者がある製品やサービスを、各自の購入目的に照らして代替品と比べた際に知覚できる品質や優位性のこと。
■「ブランド連想」:消費者がそのブランドに関して連想できるすべてのもの。

このように、「ブランド」とは企業の単なる識別標識である商標(マーク)を意味するのではなく、目には見えないが企業の実体的な価値の総体であり、企業の長期にわたる地道な「ブランド」構築活動により創造されるものと考えられるようになりました。


ブランド戦略

大企業の「ブランド」の展開については、多数の成功事例の研究がされて、多くの難しい本が書かれています。しかし、実際に、これらの理論をあてはめて、ブランディング活動を行うには、難しい面があると思います。

ここでは、「ブランド」とそのマークとしての「商標」の関係性を考えるのに必要となるブランド戦略の基本のみを見てみたいと思います。

大企業の「ブランド」は1つだけでなく階層構造をもつ複数のブランドからなります。この複数のブランドの展開には、次のような戦略があるといわれています。

■ ブランド・アンブレラ戦略(マスターブランド戦略)
■マルチブランド戦略
■サブブランド戦略 


ブランド・アンブレラ戦略(マスターブランド戦略)

コーポレート・ブランドなど上位の強力なブランドの下に、事業ブランドや 製品ブランドを展開すものです。
これにより、既に確立されたブランドを活用でき、投資効率を上げることができます。
しかし、 これには1つのブランドに依存することによるリスク、成長の限界、ブランドの希釈化といったデメリットもあります。

例えばスポーツ用品メーカーのナイキは、バスケットボール、ランニング、サッカーなどのカテゴリーのシューズやウエアなどをすべてナイキ・ブランドの下で展開しています。その他「トヨタ」、「ベンツ」など自動車メーカもこの戦略を採っています

マルチブランド戦略

複数の製品ブランドをポートフォリオに持つ戦略です。
これにより、同一カテゴリーで複数ブランドを展開することによる市場シェアの獲得、ブランド間のリスク分散による安定性といったメリットがあります。

一方で、マーケティング資源の分散投資により非効率になる面もあります。

たとえば、ネスレ、P&G、LVMHなどが、この戦略を採っています。ネスレ・ジャパンでは、「Good Food,Good Life」という企業スローガンの下、「ネスカフェ」や「キットカット」をはじめ、約20の独立した飲食料品ブランドを展開しています。


サブブランド戦略

マスタープラン戦略とマルチブランド戦略をし組み合わせた戦略です。すなわち、コーポレートブランド+個別ブランドの形態をとります。

マスター・ブランドの保証の下、個別のブランドの特徴もアピールできますが、ブランドが増えすぎると管理が難しくなり、一貫性が保てなくおそれが出てきます。

例えば、「アサヒ本生」や「Yahoo!BB」、エースJTBなどがあります。

ブランドと商標(マーク)の関係

ブランドの始まりが焼印という「マーク」であったことは、既にみてきました。では、現代的意味(マーケティング)では、ブランドと商標(マーク)はどのような関係にあると捉えればよいのでしょうか

私は、「ブランド」の概念を、「企業に化体する無形の資産価値」とそれを顧客に伝える手段である「商標(マーク)」とに分離して捉えるべきだと思います。このように考えると、「商標(マーク)」は企業の無形資産(ブランド・エクイティ)に付されたマーク(標章)であるといえます。

概念的に表すと「ブランド」と「商標」は下図のようにな関係があるといえるのではないでしょうか。

企業は、企業コンセプト、事業コンセプトや製品・サービスコンセプトに基づいて、継続的にブランド価値を創造して行きます。。

一方、顧客は商品・サービスに付された「商標(マーク)」の機能、すなわち、その商標の発揮する、商品・サービス識別機能、出所識別機能、品質保証機能、広告宣伝機能を通じてその「ブランド」がどのようなものであるかを認識します。

これらにより、顧客のブランドに対する信頼とロイヤルティが増大します。


また、ブランドの階層は、下図のように商標の階層として対応づけられます。

具体的な、ハウスマーク、ファミリーネーム、ペットネームについては、こちらをご覧ください。


中小企業・個人事業者のブランド戦略

中小企業や個人事業者にとっても経営には「ブランド戦略」は重要なポジションを占めます。適切な「ブランド戦略」を採用し、継続してブランド価値を高めて行く必要があります。

それでは、中小企業や個人事業者のブランド戦略はどのように考えればよいのでしょうか

「ブランド」に対する考え方は、基本的には大企業の採る「ブランド戦略」とは変わらないと考えられます。投資コストを考えると「二層のブランド・アンブレラ戦略」が有利になるものと思われます。

会社やお店全体に対する「コーポレイトブランド」と商品やサービスごとの「商品・サービスブランド」を、これらの「ブランド」に対応する商標の「ハウスマーク」と「ペットネーム」に化体させるようにします。

これを図で表すと下図のようになります。



ブランドの保護

これまで見てきたように「ブランド」は「知的財産」の総体のように位置付けられます。

そして、「ブランド」は知的財産権として産業財産法(特許、実用新案、意匠、商標)、不正競争防止法、著作権法などにより保護されます。

特に、商標(マーク)は「ブランド」の目印であることから、「ブランド」の保護の中心となるのは商標法であると考えられます。

したがって、企業の「ブランド」を守るためには、ブランド戦略に適合した商標戦略を立て、適切な商標権を取得することが重要となります。

商標に関する情報は他の記事をご覧ください。

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