皆さんが、会社を作ったり、お店を始めようとする場合、まず名前を考えると思います。例えば、 ABC株式会社やイロハ商店など のように。
この名前が商人の場合は「商号」と呼ばれるものです。
ただし、個人事業主が税務署へ開業届を提出する際に、「商号」ではなく「屋号」の記載欄があるので、個人事業主の「商号」を「屋号」と呼ぶ場合もあります。
税務署としては、商人でない者も申告をするので、「商号」でなく商人以外の者も使用できるように「屋号」欄としているものと考えられます。
「屋号」についてもう少しお知りになり方は、「屋号とは」をご覧ください。
商号は自由に付けてよいのでしょうか。
「商号」も、基本的には、人に名前を付けるように、自由に付けることができます。
ただ、名前を付けることは自由だといっても、不正の目的で「商号」を使用することはできません。例えば、会社名を「ソニー株式会社」やお店の名前を勝手に「セブンイレブン」などとすると、罰せられたり、損害賠償を請求されたりすることになります。
会社の場合は、必ず「商号」を登記する必要がありますが、お店など個人事業主の皆さんは、登記することもできますが、登記しなくても問題ありません。
「商号」を登記する場合、次の制限があります。
①「全く同じ住所で、全く同じ商号」は登記できない。
② 使用する文字に制限がある。
③特定の語句や名称は使用できない。
「商号」についてもう少し知りたい方は「商号とは-商標や屋号と機能や保護の違いは」をご覧ください。
「商号」を考えるときに「商標」のことも考えておこう。
「ABC株式会社」、「イロハ商店」などの「商号」は会社やお店などの正式名称で、営業や商売の主体を表すものとして、かかせないものです。
でも、商号に含まれる「株式会社」や「商店」を除いた「ABC」や「イロハ」を商品や看板などに使うと、それらは「商号」ではなく「商号」の「略称」となりますので、「商標」としての使用とみなされることがあります。
そうすると、もし「ABC」や「イロハ」の商標権をもっている会社やお店があれば、その「略称」の使用の差止めや損害賠償を請求されることがあります。したがって名前を付けるときに、最低限、他者の「商標」に抵触しないかを調べておくことが必要です。
また、こうした消極的な意味での「商標」を考えるだけでなく、他者との差別化を図り「自社独自のブランド」を確立するという積極的な目的で「商標」を考えることも必要です。
商標て何だろう
では、「商標」て何でしょう。
「商標」とは、自己(自社)の取り扱う商品やサービスを他者(他社)のものと区別するため に使用するマーク(標識)のことです。
このように表現するとちょっと難しいように聞こえますが、要は、皆さんよくご存じの次のようなものです。
「商標」についてもう少しお知りになりたい方は、「商標とは-その種類と使われ方」をご覧ください。
「商標」の考慮の必要性( 消極的な意味での「商標」 )
先ほど、「商号」の略称を使用すると、「登録商標」をもつ者(商標権者)からその略称の使用の差止めや損害賠償を請求されると説明しました。これを少し詳しく見てみましょう。
「商号」は、同一住所でない限り、同一の名前を自由に付けることができるため、「商号」が同じ会社は全国にたくさん存在することになります。
なので、同一の「商号」であっても、不正の目的で使用しない限りは自由に使用でき、他者が自己の「商号」と同じ「商号」を使用しても、クレームを言えません。逆も同様です。
一方、「商標」は特許庁で審査されて、審査に合格したもののみが登録されます。このため、登録された「商標」(登録商標)は全国でただ1つしか存在しないことになります。また、「商標権者」には、他者が、その「商標」に類似する「商標」を含めて、その「商標」を使用することを差止め、損害賠償を請求することができる権利が与えられています。
このため、「株式会社」や「商店」を除いて、それらの略称である「ABC」や「イロハ」を商品や看板・広告物などに使うと、それらは「商号」としてでなく「商標」とみなされ、「ABC」や「イロハ」の商標権者から、その略称の使用の差止めや損害賠償請求をされることがあるのです。
特に注意すべきことは、「商標」は先に登録を受けたものが優先されることです。
先にその「商号」を使っていても、後からその「商号」に類似する「商標」が登録されてしまいますと、正式な「商号」以外の略称が使用できないことになり、大変な不利益を被ってしまうことになりかねません。
「商号」と「商標」の違いについて、もう少しお知りになりたい方は「 商号登記していると商標登録しないでいいの」をご覧ください。
積極的な商標の展開
会社やお店にとって最も大切なものは「信用」です。古くは、日本では、お店の信用や格式を「のれん」とよんで大事にしてきました。 現代でも、企業会計では、企業がM&A(買収・合併)の際に発生する、「買収された企業の時価評価純資産」と「買収価額」との差額のことを「のれん」と呼んでいます。
ここでの「のれん」は、買収された企業の信用力や技術力あるいは集客力など、目に見えない資産価値を表しており、経営学で言う「ブランド」とほぼ同じものであると言えます。
多くの企業は、その企業のブランド価値を高めようと日々努力を重ねています。この企業の目に見えないブランド価値をマークとして目に見える形にして保護しようとするのが「商標制度」です。
したがって、会社やお店を始めるときに、「どのような会社やお店にして行くか」、「他の会社やお店とどのように差別化するか」といった
叶えたいビジョンや目的 となる基本的な考え(コンセプト)を定めて、
これに則して その会社やお店の信用・格式(ブランド)を築いて行くことが望まれます。
ですから、会社やお店のブランドを保護するために、正式名称としての「商号」だけでなく、会社の信用や格式を表す「商標」のことを考えておくことが非常に重要になるのです。
わが国の「商標制度」と概要をお知りになりたい方は、「わが国の商標制度の超概要」をご覧ください。
「商標」を考慮した名前とは
一般的な会社やお店の名前の付け方については、インターネットで検索するといろんな説明がありますので、そちらを参考にしていただくことにして、ここでは、「商標」を考慮した場合の名前の付け方について少し考えてみたいと思います。
「商標」を考慮した場合の名前の付け方には、次の2つの方向性が考えられます。
■「商標権」を取得する積極的ブランド戦略
■「商標権」を取得しない消極的ブランド戦略
「商標権」を取得する積極的ブランド戦略
「商標権」は 日本国内でその商標を独占的に使用し、また、他人がその商標に類似する商標を使用することを排除することができる強力な権利です。
「商標権」を取得するためには、特許庁に「商標登録出願」をして、審査を受けて、その審査に合格し、商標の登録を受けなければなりません。
既に登録されている「商標」があると登録されませんので、付けようとしている名前が既に商標登録されているかを調査しておく必要があります。
そこで、この戦略をとる場合は、通常考えられるような名前は既に登録されている可能性が高いので、一般に世の中に無いその会社やお店のコンセプトに適った造語を考え、これを「商標』とすることをお勧めします。
「商標権」についてもう少しお知りになりたい方は「商標権とその効力の及ぶ範囲」をご覧ください。
ブランド戦略についてもう少しお知りになりたい方は「ブランド戦略と商標戦略」をご覧ください。
「商標権」を取得しない消極的ブランド戦略
この戦略は、あまりお勧めできませんが、商標登録をする必要がないので、コストを低く抑えられるメリットがあります。
「識別力のない商標」は商標登録出願しても、審査されて拒絶査定がなされて商標登録することができません。「識別力のない商標」とは、一般的に使われていて自己の商標と他者との区別ができないものをいいます。詳しくは「商標登録ができない商標とは-識別力のない商標」をご覧ください。
この場合、自己も商標登録できないし、他者も商標登録できないため、このような「商標」は自由に使用してもだれからもクレームを付けられることがありません。ただ、まずないですが、その「商標」が他社の著名な「商標」と同じかこれに類似する場合は問題が発生することがあります。
したがって、「識別力のない商標」に該当する名前を「商標」として使用する戦略をとることもできるわけです。
この場合でも、一応、商標登録出願をして特許庁から「識別力がない」旨の拒絶査定を得て置くほうがよいでしょう。