前回は「商号」について記載しました。今回は「商号」と近い意味で使用される「屋号」について見て行きたいと思います。
屋号とは
屋号とは、家を特定するために付けられた呼称です。
屋号の始まり
屋号は、かなり古くから用いられていたようで、その始まりは、平安貴族が同系の氏の家を居住地名、例えば一条、三条などを、「一条家」、「三条家」などと呼んで区別したのが始まりのようです。
屋号の類型
そして、近世になるとおもに次のように用いられるようになりました。
■ 家屋敷の各戸につける姓以外の通称で、先祖名「久作」、職業名「油屋」、家の本家・分家関係「大家」など。
■ 商店の商業上の名で生国や姓の下に「屋」をつけた「越後屋」「三河屋」など。
■ 歌舞伎俳優などの家の称号で「音羽屋」「成田屋」「成駒屋」など。
「屋号」と「のれん」
「屋号」とともに用いられてきたものに「のれん」があります。
のれんとは
「のれん」とは、店先や部屋の境界に日よけや目隠しなどのために吊り下げる布のことをいいます。
昔から商店では、入り口などに営業中を示すため掲げられ、それには屋号や家紋などが印されていることが多く見られました。
「のれん」は、店の開店とともにこれを掲げ、閉店になると仕舞うことで、商店の営業中の目印として利用されてきました。そこから、その店の屋号を「のれん」と象徴的に呼び、商店の信用や格式をも表すようになりました。そのため、商人は信用や格式の象徴である「のれん」を守ることに心血を注いできました。
のれんの現代的意味
現在でも、居酒屋とかラーメン屋など「のれん」を掲げるお店は多くあります。
また、「のれん」が商店の信用や格式を表すことから、企業会計では、企業がM&A(買収・合併)の際に発生する、「買収された企業の時価評価純資産」と「買収価額」との差額のことを「のれん」と呼んでいます。
ここでの「のれん」は、買収された企業のブランド力や技術力あるいは集客力など、目に見えない資産価値を表しており、正しく言い得て妙な表現です。
屋号の近年の使われ方
個人事業主における屋号
近年では、個人事業主の「商号」を「屋号」と呼んでいるようです。
例えば「〇〇店」「○○商店」「○○事務所」「〇〇医院」などです。
これは個人事業主が税務署へ開業届を提出する際に、「商号」ではなく「屋号」の記載欄があるので、個人事業主の「商号」を「屋号」と呼んでいるものと思われます
税務署としては、商人でない者も申告をするので、「商号」でなく商人以外の者も使用できるように「屋号」欄としているのではないでしょうか。
会社における屋号
一方、大手企業では、百貨店の「高島屋」や「松坂屋」、スパーの「長崎屋」などにその名を留めています。
会社の場合は、商号は会社の種類を必ず記載する必要がありますので、商号はそれぞれ「株式会社高島屋」、「株式会社松坂屋(現在:株式会社大丸松坂屋百貨店)」、「株式会社長崎屋」です。したがって、「高島屋」、「松坂屋」、「長崎屋」と呼んでいるのは、略称(ニックネーム)となります。
略称(ニックネーム)には「商標権」が及びますので、「高島屋」、「松坂屋」、「長崎屋」は商標登録されています。このように特定の商品やサービスにマークを付すのではなく、会社全体に付すマーク(商標)のことを「ハウスマーク」と呼びます。
したがって、大手企業の場合は、以前「屋号」と呼んでいたものは、正式名称である「商号」とその略称(ニックネーム)である「ハウスマーク」とに機能分化してきています。
そして、営業上の信用や格式は「ハウスマーク」に化体してきており、この「ハウスマーク」を商標登録し商標権により守っています
屋号とハウスマーク
「高島屋」を例に少し詳しく見ていきましょう。
「高島屋」の「ハウスマーク」
「高島屋」は、1831年に京都で古着と木綿を扱う店として屋号を「高島屋」として創業しています。
現在、「高島屋」の商号は「株式会社高島屋」です。従って、「高島屋」は略称です。略称の場合、商標権が及びます。
したがって、「高島屋」では以下のようなハウスマークとして「商標」を登録しています。
「商標」は上記のような「マーク」(標章)と商品やサービスで権利が構成されています。
そのため、「高島屋」のようにいろんなサービスを手掛けているところでは、マークとサービスの組み合わせで多くの商標が登録されています。
「高島屋」の場合、「ハウスマーク」だけでも、100件近くの登録があります。
これにより、他社が「ハウスマーク」と同一または類似する「ハウスマーク」を使用するのを防止するのと同時に、他社からその商標の使用を差し止められるのを防止しています。
中小企業や個人事業主にとっての「ハウスマーク」
大手企業と同様に中小企業の「商号」の略称や個人事業主の「屋号」にも商標権が及ぶ可能性があるため、「ハウスマーク」としてむ商標登録して守っておくことをお勧めします。
商標登録によりどのように「ハウスマーク」が守られるのか次回以降で説明します。
次回は「商標」とは何かについて詳しく見て行きたいと思います。