商標権とその効力の及ぶ範囲

商標権とは

「商標権」は我が国においてその商標を独占的に使用し、また、その商標に類似する商標を排除することができる強力な権利です。

「商標権」を侵害する者に対しては、その商標の使用を差し止めることや損害賠償を請求することができます。

商標権は、「商標(マーク)」と、その「商標」を使用する商品やサービスとの組合せで構成されます。つまり、「商標(マーク)」だけでなく、その「商標」を使用する商品やサービスと一体となって権利範囲が決まります。

商標権の発生

商標権は特許権や意匠権と同様に、権利が登録されて我が国で他者の使用を排除して独占的に使用できる強力な権利です。

「商標権」を取得するには、特許庁に商標登録出願をする必要があります。
商標登録出願がなされると、特許庁審査官がその商標が「先行商標があるかなどの登録要件」を審査し、登録できるとの判断(登録査定)がなされた後、登録料を納付すると、「商標登録原簿」に設定の登録がなされ、商標権が発生します。

商標権は特許庁に登録されて初めて発生します。たとえ先に「商標」を使用していても、登録していなければ、後で他者がその「商標」または「その商標に類似する商標」を出願して、登録されると、今までに使用していた「商標」が使用できなくなるおそれがあります。

商標権の存続期間は、設定登録の日から10年で終了します。ただし、必要な場合には、存続期間の更新登録の申請をすることで10年の存続期間を何度でも更新することができます。

商標権の効力


商標権の効力は、日本全国に及びます。 また商標権の効力は同一ものだけでなくその商標に類似するものにも及びます。

商標権は下図のように「専用権」と「禁止権」から構成されます。

専用権(商標法25条)

専用権の範囲では、商標権者は、指定商品又は指定役務について、その登録商標を自由に使用をすることができ、また他者がその範囲の商標を使用することを排除することができます。
同一の範囲は、登録商標と全く同一に限定されず、多少の相違があっても同一のものと取り扱われます。

禁止権(商標法37条1号)

禁止権の範囲では、商標権者自身がその範囲の商標を積極的に使用することはできませんが、他者がその範囲の商標を使用するのを排除することができます。

これにより登録商標に類似する範囲まで商標権の効力を拡張し、他者がその登録商標に類似する商標を使用するのを禁止しています。

商標権の効力が及ばない範囲

商標権は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用を独占し、その類似範囲についての他人の使用を排除する強力な権利です。
しかし、商標権の効力を一律に及ぼすと円滑な経済活動を阻害するおそれがあるため、このような場合には商標権の効力が及ばないように制限することとしています。

商標権の効力が及ばない範囲については、商標法26条に規定されています。特に実務上関係してくるのが、①自己の氏名・名称等を普通に用いられる方法で表示する場合(26条1項1号)と②商品又は役務の普通名称、品質等を普通に用いられる方法で表示する場合(26条1項2号、3号)です。

自己の氏名・名称等を普通に用いられる方法で表示する場合(26条1項1号)

自己の肖像や氏名、名称、著名な雅号、芸名、筆名またはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標には商標権の効力は及びません。

例えば、自己の会社名と同一または類似の登録商標があった場合でも、自己の会社名を示すものとして「普通に用いられる方法」で使用する範囲においては、商標権侵害にはなりません。
しかし、自己の会社名であっても「普通に用いられる方法」でなく「商標(マーク)」のような使用した場合には、商標権の侵害となる場合があります。

特に会社の場合、商号が「ABC株式会社」であれば、「ABC株式会社」が正式名称で、「株式会社」を除いた「ABC」は略称にあたり、略称「ABC」が著名でなければ、「普通に用いられる方法」での使用であっても商標権の侵害になる場合がありますので、これを用いるには特に注意が必要です。

商品又は役務の普通名称、品質等を普通に用いられる方法で表示する場合(26条1項2号、3号)

商品又は役務の普通名称、品質等を普通に用いられる方法で表示する商標には商標権が及びません。

そもそも、商品又は役務の普通名称、品質等を普通に用いられる方法で表示する商標は、みんなが自由に使用することを望むものであるので、特定の者に独占的に使用させないように、商標登録することができないものとされています。
しかし、仮に誤って商品や役務の普通名称や品質を表す文字等が商標登録された場合であっても、だれもが自由に使用することができ、商標権侵害にならないようにしたものです。

したがって、このような商標を出願しても特許庁審査官による登録の拒絶査定を受けることになります。だれもが商標登録はできないけれども、その商標を自由に使用することができるわけです。

参考資料

商標法

(商標権の効力)
第二十五条 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

(商標権の効力が及ばない範囲)
第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
 一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
 二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
 三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
 四 当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標
 五 商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標
 六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標
2 前項第一号の規定は、商標権の設定の登録があつた後、不正競争の目的で、自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を用いた場合は、適用しない。
3 商標権の効力は、次に掲げる行為には、及ばない。ただし、その行為が不正競争の目的でされない場合に限る。
 一 特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成二十六年法律第八十四号。以下この項において「特定農林水産物等名称保護法」という。)第三条第一項(特定農林水産物等名称保護法第三十条において読み替えて適用する場合を含む。次号及び第三号において同じ。)の規定により商品又は商品の包装に特定農林水産物等名称保護法第二条第三項に規定する地理的表示(次号及び第三号において「地理的表示」という。)を付する行為
 二 特定農林水産物等名称保護法第三条第一項の規定により商品又は商品の包装に地理的表示を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
 三 特定農林水産物等名称保護法第三条第一項の規定により商品に関する送り状に地理的表示を付して展示する行為

(差止請求権)
第三十六条 商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

(侵害とみなす行為)
第三十七条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
 一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
 二 指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
 三 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
 四 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為
 五 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をするために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を所持する行為
 六 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為
 七 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をし、又は使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造し、又は輸入する行為
 八 登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、又は輸入する行為

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