日本で商標権を取得しても、その権利の範囲は日本国内のみで、外国には及びません。
外国にもその商標権の効力を及ぼしたい場合は、商標権を取得したい国に改めて商標出願をする必要があります。
そして、厄介なことに、各国によって商標制度が異なっています。
このため、商標権の取得を専門家に依頼するとしても、後々取得した商標権を生かすためには、商標権を取得しようとする国がどのような商標制度を採用しているか概要だけでも知っておくことが望まれます。
権利付与の原則-登録主義と使用主義
「商標権をどのよう場合に発生させ保護を図るべきか」について各国でその考え方に違いがあります。
一般的には「商標権は商標の使用によって発生する」と考えるのが自然です。この考え方を「使用主義」といいます。他方、使用主義は権利関係が明確でないため「 商標権は商標登録により発生する」と考えようとする国があります。この考え方「登録主義」といいます。
これらの考え方を基本として、実際的な権利付与の仕方として、「先使用主義」と「先願主義」があります。
先使用主義
「 先使用主義 」とは、先に使用を開始したものを優先して登録する制度です。この制度では、先に使用を開始している出願人に順当に権利を与えることができますが、登録審査において、先に使用を開始しているかどうかの判断が困難であるという問題があります。
米国やカナダではこの制度を採用しています。
先願主義
「先願主義」とは、出願日が早いものを優先して登録する制度です。この制度では、商標の出願日の早い者勝ちで権利が決まりますので、だれに権利を賦与すべきかが明確に決まります。
しかし、先にその「商標」を使用している者が商標登録出願をしていなければ、その「商標」または「類似商標」を遅れて出願した者が登録を受けることができるため、その商標を先に使用していた者がその商標を使用できなくなるという不利益を被ることがあります。
また、実際に使用しなくても商標登録が可能となるため、不正の目的で商標登録されたり、不必要な商標が登録されたりして、真にその商標を使用したいと望む者が使用できなくなるという不都合が発生する可能性もあります。
「先願主義」は、権利の付与が明確であるため、日本をはじめとして、多くの国で採用されています。しかし、「先願主義」には上述したような問題があり、その問題を解決する必要性から、各国は登録制度の中に「使用主義」的要素を取り入れており、各々の国で少しづつ異なった制度となっています。
審査主義と無審査主義
「審査主義」とは、出願後、その商標が公益に反するものでないか、識別性を有するかどうかなどの絶対的登録要件及び、他人の先願商標と抵触するか否かなかどの相対的登録要件といった実体的な審査を行い、審査に合格したもののみを登録するものです。
審査主義を採用している国は、日本、アメリカ、中国等多くの国で採用されています。
「無審査主義」とは、実体的な審査を行わないで、出願の形式が適法であればそのまま登録するもので、実際的な権利関係の処理は、事後の異議申立や訴訟等で決定するというものです。
無審査主義を採用している国は、フランス、イタリア等があります。
その国が加盟している条約等
出願しようとしている国がどのような条約に加盟しているかにより、予定している手続きが可能かどうかが異なりますので、これを確認しておく必要があります。特に商標に関する条約には、パリ条約、TRIPS協定、マドリッド協定議定書、商標条約、ニース協定が重要です。
パリ条約
産業財産権の保護を目的に1883年パリで締結された同盟条約で、産業財産権に関する国際的な基本的な条約であり、日本は1899年に加盟しています。
商標に関しては、日本での出願日から6ヶ月以内に優先権を主張して、外国に出願を行うことができます。これにより、日本で出願した日にその外国でも出願されたものとみなされ、審査における先後願の判断する基準日が日本で出願した日になるなど種々のメリットがあります
TRIPS協定 (WTO協定)
「TRIPS協定」とは 世界貿易機関(WTO)の設立に関する協定の一環を構成する〈知的所有権の貿易的側面に関する協定〉agreement on trade-related aspects of intellecutual property rights.(1994年)のことをいいます。
パリ条約などにおける既存の義務の遵守を規定している他、加盟国が他の加盟国の国民に与える権利は全ての加盟国に与えられるという最恵国待遇や、自国民の待遇より不利でない待遇を他の加盟国にも与えるという内国民待遇などを原則としています。
また、国際的な知的財産権の保護の水準を大幅に引き上げ,協定違反に対してはWTOの紛争解決手続によって制裁するなど,画期的な内容を含んでいます。
商標法条約
商標法条約Trademark Law Treaty(TLT)は、 ユーザーフレンドリーの理念のもとに、各国商標制度の手続の簡素化と調和を図ることを目的として、1994年10月に採択された条約で 、日本では1997年1月1日にこの条約に加入しています。
マドリッド協定議定書(マドプロ)
マドリッド協定議定書(Protocol Relating to the Madrid Agreement Concerning the International Registration of Marks)は、1989 年6月27日にマドリッドで採択された議定書で、 日本は2000年に加盟しています。
商標の国際出願を定めたもので、日本国特許庁に出願又は登録されている商標を基礎として、その商標と同一の内容については、国際登録出願という統一された手続により、他の締約国等へ保護を拡張することができます
ニース協定
商品およびサービスに関する商標のの登録手続のための分類を国際的に統一することを目的として締結された協定です。1957年6月15日にニース協定が成立、その後数回にわたり改訂されており、 日本は、1990年にこの協定の効力が生じています。
保護対象の商標の種類
保護される商標の種類は各国で異なっており、
■日本では
文字商標、図形商標、記号商標 、立体商標、結合商標、色彩商標、音響商標、動きの商標、位置商標、ホログラム商標
■米国では
文字商標、 図形商標、記号商標、立体商標、結合商標、色彩商標、音響商標、芳香商標、動く商標、トレードドレス、ホログラム商標
■英国では
文字商標、図形商標、立体商標、記号商標、結合商標、色彩商標、音響商標、芳香商標、動きの商標、位置商標、においの商標、触感商標、味覚商標、トレードドレス
となっています。
日本商標制度では採用されていない他の制度
コンセント(同意書)制度
他人の商標に類似するとして商標登録出願が拒絶された場合に、 その他人の商標との抵触(拒絶理由)を解消するためにその商標の権利者から出願の登録についての同意(コンセントレター) を得ることで、併存して商標の登録を認める制度 です。
コンセント制度を採用する国においても、公衆に誤認混同を生じるおそれがある場合等には認められない場合もあります。
ディスクレーム制度
商標の構成要素の一部に識別力の弱い言葉が含まれてい る場合に、通常は商標登録を拒絶されますが、その部分について権利を要求しないことを表明 することにより、登録を受けることができる制度 です。 ディスクレームした部分に基づいて権利行使をすることはで きません。
一出願多区分制
日本では、一つの出願で複数の区分を指定することができます。これが一出願多区分制と呼ばれる制度で、米国や英国をはじめ多くの国で採用されています。。これに対して、一つの出願では一つの区分しか指定できないとする制度を一出願一区分制と呼び、カナダをはじめ一部の国が採用しています。
各国の具体的な商標制度
各国の具体的な商標制度の概要につきましては、特許庁が調査した結果を発表していますので、下記のリンクをご覧ください。
■諸外国の制度概要(一覧表) (外部リンク)
■諸外国の制度概要(個別) (外部リンク)